なぜメルカリは転売屋を野放しにするのか

ベンチャー企業が育たないと言われる日本市場において、LINEと並び近年最高の成功を収めているメルカリ。売上高は2020年時点で762億円を超えており、今なお成長途上にある。

筆者も時々利用しているが、写真をアップするだけで出品できる手軽さ、ダンボール箱に入れてコンビニでバーコードを読ませるだけで発送できる仕組み(しかも相手の住所も自分の住所も不要で配送できる!)において、非常に高いレベルのユーザー体験を提供している。

だが便利なサービスというのは、必ずといっていいほどそれを悪用する輩を生み出す。GoogleのブラックSEO業者や、フェイスブックのフェイクニュース業者などが代表例だが、メルカリも例外ではなく「転売屋」と呼ばれる社会悪の温床となっている。

ちなみに筆者は「転売屋」というネーミングは問題を適切に表現できていないため改めるべきだと考えている。転売は通常の経済活動であり、モノを仕入れて販売する事それ自体は商売の基本中の基本である。

問題は、「買い占め」と「価格吊り上げ」だ。転売屋の本質は、人気になりそうな商品を「買い占め」て流通を阻害し、本当に商品を欲している人々に高値で売りつける。いわばモノ版のダフ屋であり、なんの付加価値も生んでいない。

これまでは、モノの流通は非常に手間のかかる仕事であり(それゆえ問屋などの流通を専門とする業者がたくさん存在している)、容易に「転売屋」に参入することは難しかったが、メルカリの登場により参入障壁が一気に下がったため、転売屋の数が激増し社会問題と化している。

ここ最近ではマスクや消毒液、ゲーム機などがその標的となっており、正規の販売ルートから一般人が購入することが困難になった時期があった。

マスクについては、政府が重い腰を上げて遅まきながら規制を行ったため、メルカリでも規制を実施した。これにより、マスクが手に入らない状況は解消されたが、ゲーム機やユニクロの+Jダウンはいまだに高値で出品されている。

ではなぜメルカリは転売屋を規制せずに放置したままにしているのだろうか。答えは転売屋がメルカリの売上に多大な貢献をしているからだ。本稿ではメルカリの取引をモデル化して転売屋が以下にメルカリにとって重要な存在であるかを明白にしたいと思う。

ここでは1万円の中古ヘッドホンを例に典型的なメルカリ取引を見てみよう。転売屋が存在しない場合の取引は以下のようになる。

Aさんがヘッドホンをメルカリで1万円で売りに出す。

Bさんがヘッドホンを1万円で購入する。

するとメルカリには、10%の手数料1,000円が売上として入ってくる。

この取引に転売屋が介入した場合は、どうなるだろう。

Aさんがヘッドホンをメルカリで1万円で売りに出す。

転売屋がヘッドホンを1万円で購入する。(転売屋は、実はこのヘッドホンが1万5千円で売れることを知っている)

転売屋が1万5千円で売りに出す。

Bさんがヘッドホンを1万5千円で購入する。

この取引では、メルカリの売上は、一度目の取引手数料1,000円に、二度目の取引の手数料1,500円を加えた合計2,500円の売上が入ってくる。

転売屋のおかげで、メルカリの売上はなんと2.5倍になったのである。メルカリとしては転売屋様様であろう。さらに転売屋はゲーム機をアマゾンや電気店のECから買い漁って、本来は商流に絡むことのない、メルカリで販売してくれるありがたい存在だ。これではメルカリにとって転売屋を規制する意味はまったくない。

これがメルカリが転売屋を放置する理由である。こういった構造になっている以上、自浄作用は効かず、法律・条例によって規制する必要があるのだが、グローバル経済の元では、これがなかなか難しい。例えば国内の転売屋を規制して全滅させても、今度は中国の転売屋が買い占めを行うだけだろう。

転売屋は現代の経済環境にうまく適合した駆除できない害虫である。その存在価値の無さと有害さは、ゴキブリ以下であるが、しぶとさにおいてはゴキブリ以上。なかなか転売屋を撲滅することは今後も難しいであろう。

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