映画の大ヒットもあり、世間は猫も杓子も鬼滅の刃。「なぜ鬼滅の刃はヒットしたのか」、そんな記事も多くみかける。
だいたいは、
・ufotableのアニメが凄い
・コロナで云々
に集約されるのだが、鬼滅の刃の漫画を読んでみると、実は原作が抜群に面白い。
普通にワンピースと並ぶ2枚看板になって当然の面白さ。
なぜこれほどまでに面白い漫画が、ワンピはおろかハイキューやヒロアカよりも下の中堅レベルに甘んじていたのかメチャクチャ不思議でならない。
ということで今回は他の記事とは視点を変えて、なぜ鬼滅の刃のように面白い漫画が大ヒットせずに埋もれていたのかについて、考察してみたいと思う。
実はジャンプ読者の中には、アニメ化前から「鬼滅の刃」を評価している人も少なからずいた。(単行本も累計400万部発行されていたのだ)
にもかかわらずアニメ化前の鬼滅の刃は、ドラゴンボールやスラムダンクなど歴代の看板作品の知名度には遠く及ばない状態であった。
私自身も5ちゃんねるのジャンプ系スレで「鬼滅は面白いだろ」という意見をたびたび見ていたものの、「ふーん。”おにめつ”っておもしろいのかぁ」くらいにしか思っていなかった。(当時は「おにめつ」だと思っていた。。。)
しかし、途中から読み始めるのも嫌だったので、アニメ化されたら見てみようくらいの気持ちでいた。こういう評判は知っていたものの、読んでいなかった人は結構多かったと思う。これこそが昔と今の市場構造の違いであり、漫画雑誌がアニメ化を重視する理由なのだが、それはまた別の機会に書きたいと思う。
【仮説1】連載開始1年はストーリーが重い
そんなこんなで、いざアニメ化されて4話くらいまで視聴したのだが、私は1度そこで離脱している(なんと先見の明がないことか!)。
独特な台詞回しや素晴らしいカメラワークなど、1話の出来が確かに素晴らしかった。だが2話、3話と続く重い展開に耐えきれなかったのだ。
登場人物のエピソードはどれも悲しいを通り越して悲惨だったし、毎週毎週お涙頂戴の悲しいエピソードばかりに心が萎えた。
で視聴を止めていたのだが19話がものすごく話題になって、一気に火がついたのだった(筆者はそれでもう一度見始めた)。
仮説だが、これはジャンプで1話から読んでいた読者にとっても同じだったと思われる。鬼滅に光るものを感じながらも、スカッとしない重苦しいストーリーに離脱していった読者も多かったことだろう。
なお余談だが、編集含むアニメ制作陣は、ジャンプのアンケート推移を分析し、「那田蜘蛛山編」から徐々に人気が上がっていったことを十分に承知していたことだろう。
それ踏まえて、アニメでは話が面白くなり始める19話に全力を注ぎ、着火に賭けたのだと思われる。通常19話というと、作品の人気・評価は定まっており、今さら頑張ったところで視聴者は増えないはずだ。
だが時代は変わった。19話だろうと話題になれば、配信全盛の現代ではいつでも1話から視聴することができる。テレビしか無かった頃とは様相が全く変わっているのだ。19話から人気を獲得することは始めから制作陣の狙いだったと筆者は考えている。
ということで鬼滅原作が大ヒットしていなかった理由の1つ目は、連載当初のストーリーの重さにあると考えられる。
【理由2】作者の演出力・画力が構成力に追いついていなかった
作者・吾峠呼世晴先生は、鬼滅の刃が初の連載作品。アシスタントへの指示出しなども経験が無く、他の連載漫画家の仕事場に見学に行ったほどだった。
特に演出力・画力は模索中という感じで、洗練されたものではなかったため、抜群の構成力や独特の世界観、素晴らしい台詞回しが読者に伝わっていなかった。
作画の良いアニメを見慣れているであろう最近の読者にとって、これは割と致命的だった。昔は漫画を読むと想像力が欠如して馬鹿になる、小説を読みなさいなどと言われたものだが、今はアニメのため読者の想像力はさらに下がっている。
ちゃんと誰にでもわかるようなコマを描ける画力が無いと、作品の面白さは伝わらないし、始めから読者に敬遠されてしまう。そのためアニメ化によって絵と演出が補完されるまで、多くの人は鬼滅の面白さを理解できなかったのだと思う。
【理由3】週刊少年ジャンプの販売数低迷
週刊少年ジャンプの発行部数は2019年で約160万部。漫画雑誌2位のマガジンを100万部近くリードしている圧倒的な存在だ。
だがこれはあくまで発行部数であり、販売数ではない。週末のコンビニで大量に売れ残っているジャンプを見るに、実際の販売数は100万部を割っていると思われる。
売れ残りの少なかったピーク時の635万部から考えると、6分の1だ。さらにスマホの普及で読者の暇な時間は減っており、すべての掲載漫画を読む人は少数派となっているだろう。
そうなると読者の絶対数が足りずに、口コミも広がりにくくなる。例え自分は読んでいたとしても、学校で同級生が誰も読んでいなければ、話題にもならない。
クラスの皆がジャンプを読んでいた平成初期なら、ちょっと面白い漫画が出てくると一気に話題になったのだが、今はそういった環境ではないのだ。ジャンプ自体が衰退している結果として人気に着火するのが遅くなったと考えられる。
他にも埋もれている名作はたくさんある
これまで述べた理由が重なって漫画史に残る名作「鬼滅の刃」は埋もれていたのだと思う。埋もれた名作をそのままにせず、弱点をキッチリと把握して、アニメでヒットにつなげたアニメ制作陣の力には頭が下がる。彼らの努力がなければ稀代の名作は埋もれたままになっていただろう。
そして同時に思うのは、鬼滅の刃のように脚光を浴びることが出来たのはレアケースで、面白いのに埋もれてしまった漫画は他にもたくさんあるのではということだ。それら埋もれた名作がこれから再び世に出て脚光を浴びることができたら良いなと個人的には思う。